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カラー フォー ユア ライフ (Color for Your Life)
第2回 - 海外の建物

スイス医療施設 その5 インテリア編

 今回は引き続きチューリッヒにある老人ホーム、カフェールベルグナーシングホームの入居者の部屋や生活について書きたいと思います。

この老人ホームには認知症の人も多く入居しているため、認知症対策が随所に取り入れられていました。その一つに大きな窓を付けるという対策があり、ホームの居室には壁一面に大きな窓がついていて、自然光がよく入ってきます。
説明してくれた施設担当者の話によると、認知症抑制には太陽光(自然光)が良いそうです。確かに人のホルモンバランスを整えるのに太陽光が良いと聞いたことがあります。特に朝日を浴びることで交感神経が刺激されて脳が覚醒するようです。認知症抑制にも効果ありそうですね。

壁一面の大きな窓が気持ち良い居室
壁一面の大きな窓が気持ち良い居室

 さてホームの居室ですが、大きな窓がついているため天候の良い日中は照明がいらないくらい明るいです。一方、廊下は窓が少ないのですが、だからといって照明を煌々とつけるのではなく、天井もしくは壁の間接照明だけで、光の方向は床ではなく壁へ向いていました。床に直接光があたらないようになっていますが、歩行するには十分な光量です。廊下の雰囲気はホテルのように落ち着いた空間でした。
蛍光灯の画一的な光ではなく、太陽の光、曇天時の光、間接照明の光など自然光と照明が使い分けられ、奥行きのある表情豊かな空間になるよう演出された光環境に感心しました。

落ち着いた雰囲気の廊下(左:管理フロア、右:居室フロア)
落ち着いた雰囲気の廊下(左:管理フロア、右:居室フロア)

 照明といえば、皆さんこんな経験をされたことありませんか?
「海外のホテルに泊まったとき、照明の暗さに驚いて全ての電気を付けてみるものの、それでも薄暗くて不安になる」
海外のホテルの照明は、枕元、足元、スタンド、壁の間接照明だけで、それらの明るさレベルもそれほど高くないため、日本で煌々とした蛍光灯の均一な明るさに慣れていると物足りなく感じてしまうのです。
しかし、目が慣れてくると何とも落ち着いた空間に感じてきます。それほど広くないホテルの部屋でも間接照明による陰影感で奥行きすら感じられ、余裕も出てきます。狭い部屋なのに優雅でリラックスした気分に浸れるのです。
照明によるくつろぎ効果を実感した私は、最近自宅のリビングの照明を見直しました。天井の中心にメイン照明、三隅にダウンライトがついているのですが、メイン照明を取り外して3つのダウンライトのみにし、新たに60W電球1つのスタンドを購入して間接照明だけの生活を始めました。DVDを観る時などはスタンドライトだけで過ごし、映画館のような雰囲気を楽しむこともあります。これが何とも心地よい空間になったのです。必要な明るさだけを選ぶことができる間接照明は、電気のエコにもなりますよね。ちなみにメイン照明がついていた場所にはシーリングファンを取り付け、雰囲気だけでもリゾート風を味わっています(笑)。

 さて、入居者の生活ですが、基本的に建物内では範囲や時間の規制なく自由に行動できます。というのも入居者は手首に腕時計型のセンサーをつけており、居場所が把握できるようになっているからです。しかもセンサーをつけていないとドアが開かず、万が一建物から外に出てしまった場合は建物の出口付近に設置しているセンサーが作動して、ナースステーションに通報する仕組みになっています。スタッフも同様のセンサーを身につけています。
管理フロアの廊下にはたくさんの絵が飾ってあるのですが、ここに面白い工夫がありました。大きな絵の横に小さな絵が飾ってあります。実はこの小さな絵の後ろにスイッチがあるのです。これはスタッフだけが知っている隠しスイッチだそうです。管理上の出入口や階段へ続くドアはこのスイッチを押さないと開かないようになっています。何となく見つかりやすいような気もしないでもないのですが、今のところ問題が起こったことはないそうです。

大きな絵(右)と小さな絵(左)

大きな絵(右)と小さな絵(左)

小さな絵を持ち上げるとスイッチが隠されている

小さな絵を持ち上げるとスイッチが隠されている

 廊下の手すりにも工夫があります。居室ドア近くの手すりに何かが巻きつけてありました。それはボタンがたくさん付いているものだったり、ふわふわの毛皮だったり、場所によって異なっています。これは入居者が自分の部屋と分かるための工夫です。認知症の人には視覚や聴覚だけでなく、様々な感覚を使って認識し、覚えることがとても大切だそうです。手すりへの工夫だけでなく、部屋のドアに自分の写真を貼っているケースも多く見られました。五感を使って自分で出来ることは自分で、という「自助努力」をここでも垣間見ることができました。

自室のドア横の手すりに巻かれた自分だけの目印
自室のドア横の手すりに巻かれた自分だけの目印

 部屋の中も見せていただけたのですが、自宅で使っていた家具を持ち込んでいる方が多かったです。最近は日本の老人ホームでも多いですよね。使い慣れているものが側にあることで安心感がありますし、記憶を留めるという点でも有用だそうです。家具はデコラティブでクラシカル、木の色も深いあめ色に磨きあがっているもので、長い間大切に使われてきたものと一目見て分かるものでした。

使い込まれた家具を持ち込んでいる
使い込まれた家具を持ち込んでいる

 部屋の天井を見上げると、天井には空をイメージしたクロスが貼られていました。入居者の希望だそうです。こういうことに対応できるのがすごいと思いました。これも入居者の人間性を大切にしているからこそできることですよね。

居室の天井に描かれた空
居室の天井に描かれた空

 何部屋か見せていただき気付いたのですが、皆さん部屋にいない!
自由に行動できるため、各自好きな場所で過ごしているようです。そういえばエントランスのスペースやカフェスペースにたくさんの人がいました。皆さんトランプをしたり、本を読んだり、お茶をしたりしてくつろいでいました。老人ホームとはいえ、私たちと変わりない日常生活を送る風景に何となく安堵感を感じたことを思い出します。

日当たりの良い部屋でのリハビリ風景

日当たりの良い部屋でのリハビリ風景

 廊下を進むと甘い香りが漂ってきました。部屋を覗くと日当たりの良い部屋で丸いテーブルを囲って入居者とスタッフでクッキー作りをしています。入居者がクッキー生地を丸めて、スタッフが卓上コンロで次々と焼いています。部屋には絵や籠に盛られたフルーツのオブジェなどが飾ってあり、友人宅のリビングのような居心地の良い空間でした。話を聞くと、手先を動かすリハビリ治療だそうです。リハビリにもなり、クッキーも味わえる一石二鳥ですね。

 さらに進むと、廊下の突き当たりに他の場所と雰囲気が異なる空間があります。そこにも大きな窓はありますが、北側に位置するため薄明るい光が窓から入ってくる程度です。しかし照明は点灯しておらず、薄暗い中にクラシカルなイスや家具、鏡、額縁が飾ってありました。全体のテイストを揃えたコーディネートですね。
この空間だけ他と空気が異なり、古い洋館の一室を垣間見たような気持ちになりました。
ここは心静かに落ち着きたい時に使う場所なのでしょうか…。

北側に位置するクラシカルな空間

北側に位置するクラシカルな空間

青と赤でコーディネートされた空間<

青と赤でコーディネートされた空間

 また別の廊下のコーナーには、青い植木鉢と青い椅子、その横には赤いソファーが置いてあります。後ろの壁には2枚の絵が飾ってあり、その絵には青い海や赤い外壁の家が描かれています。青と赤を使ったコーディネートになっていました。ちょっとしたことですが、ちゃんと考えているのですね。

 海外のインテリアを見ていると、よく考えられたコーディネートだなと感心するケースが多々ありました。海外では幼少の頃からインテリアや洋服のコーディネートを楽しむと言われています。親が選ぶのではなく、子供の気持ちを大事にして自分で選ばせるそうです。だからインテリアコーディネートの感覚が当たり前にあったり、人間性を大事にする意識が高いのですね。
日本でも幼少期にインテリアや街並みの色彩に関心を持ってもらえるような取組みをしたら、きっと興味を持つ人が増え、インテリアや街並みがもっときれいになるのではと思いました。

 今回のホームを視察して感じたことは、一つの施設の中に様々なイメージをもつ共有空間が用意されており、活用されていることです。例えば一人になれる空間、集まれる空間、クラシカルな雰囲気の空間、モダンな雰囲気の空間、日当たりの良い空間、薄暗い空間など…。不特定多数の人が生活する場所だからこそ、各々が落ち着ける場所があり、さらにこれまでの延長線上のように日常生活が送れるようサポートされている、本当に素晴らしいと思いました。

 次回はチューリッヒから離れてジュネーブヘ移ります。
葡萄畑を所有するホスピス、オーボンヌ病院についてです。
まだまだ素晴らしい施設の紹介は続きますので、このシリーズをもうしばらくお付き合いください。

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