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カラー フォー ユア ライフ (Color for Your Life)
第2回 - 海外の建物

スイス医療施設 その8 ジュネーブ大学付属病院 Hospital de Geriatrie(老年科専門病院)

 ジュネーブ大学付属病院のリハビリ施設についてご説明する前に、前回の続きで私たちが色彩設計を行った高齢者施設へのアンケート結果について書きたいと思います。
 そのアンケートとは、労災特別介護施設「ケアプラザ新居浜」に入居されている男性25名、女性2名にご協力いただいたものです。瀬戸内海と四国山地を仰ぐ、豊かな自然に恵まれた愛媛県新居浜市に位置する介護施設で、外観色彩は穏やかな愛媛の風土に調和するベージュを基調としています。

ケアプラザ新居浜 外観

ケアプラザ新居浜 外観

ケアプラザ新居浜 ホール

ケアプラザ新居浜 ホール

 アンケートは、入居から数か月経った入居者に対して、インテリアのカラーデザインの工夫が実際に生活するうえで効果的に感じられたか、あるいは使い勝手が良いか、という検証のため実施しました。
 評価サンプルを見せながら聞き取り調査を行い、内装のカラーデザインが被験者の施設利用に対してどのような影響を与えるかを調べました。廊下やエレベーターホールなど様々な場所の調査を行いましたが、今回は廊下の結果について書きます。

 評価サンプルは、実際に被験者が入居しているケアプラザ新居浜の廊下写真にCG加工を施し、4パターンの床模様を作成したものです。4パターンの内訳は、〔Aフローリングタイプ〕〔Bカラフルなデザインタイプ〕〔C模様がないシンプルタイプ〕〔D機能性を持たせたデザインを入れたタイプ〕です。
 Dは実際にこの施設で使われているデザインで、居室の入り口床に目印となるようアクセントを入れたり、廊下中央にドット模様を入れたものです。

A フローリングタイプ

A フローリングタイプ

B カラフルなデザインタイプ

B カラフルなデザインタイプ

C 模様がないシンプルタイプ

C 模様がないシンプルタイプ

D 機能性を持たせたデザインタイプ

D 機能性を持たせたデザインタイプ

 サンプルCGを被験者に見せて「通行しやすいと感じる廊下」と「通行しにくいと感じる廊下」について評価してもらえるよう、被験者の目線の高さにサンプルCGを掲げ質問しました。被験者の移動手段は〔自立歩行〕〔杖利用〕〔歩行器〕〔車イス〕〔ストレッチャー使用〕となっています。

 結果は〔Aのフローリング〕と〔Cの無地のシンプルな床〕が、最も通行しやすいと評価されました。ただし、車イスの方からは過去の経験から、フローリングは車輪が滑ってしまい操作しにくいことや、走行時の音が気になるという意見もありました。
 一方、通行しにくいと評価されたのは、いずれも模様があるBとDでした。Dの廊下中央にドットやラインを引く手法は良く見かけるデザインで、デザイン提案して採用されたのですが、残念ながら通行しにくいと評価されました。使う人の立場や気持ちを考慮したデザインの大切さを実感した瞬間でした。

 ただ、車いすの方からはDのように、床に一定間隔の模様があるとそれが目印になり、車いすをまっすぐ動かしやすいとの回答もありました。模様を何個分進めるか、というリハビリに使っている方もいらっしゃいましたので、何かしらの工夫でそのような機能性を通路に持たせるのも良いのかもしれません。

アンケート調査風景
アンケート調査風景

 さて、今回のアンケート結果で評価の高かったフローリングですが、日本人にとってフローリングの床は慣れ親しんだものなので落ち着くのでしょうね。車イスの方からの意見にありました操作性や音の問題もありますが、最近は本物そっくりな樹脂製の無垢フローリング調床材を良く目にします。店舗だけでなく、住宅にも使われています。見た目の素材感だけでなく、清掃のしやすさや耐摩耗性など、病院や高齢者施設の床には機能面も重要です。こうした施設に適したフローリング調の床材を使うことで、入居者の満足度アップにつながるかもしれませんね。
 そういえばスイスの病院では、フローリングの床はありませんでした。そもそもヨーロッパは個人住宅でも大理石やタイル、カーペットなどの床材が使われることが多いです。慣例的に室内でも靴を脱がない文化のため、清掃のしやすさなどからでしょうか。あるいはヨーロッパは石材を建築物に使うため、慣れ親しんだ材料として石が使われている、という面もあると思います。日本は木の文化なのでフローリングが好きなのでしょうね。

 アンケートを行っている時に、〔一緒に話せる人がいなくて寂しい〕という声を何度か聞きました。気軽に外へ出られないため、部屋にいるか、食事時に食堂へ行く、くらいしか他の人との交流がないようです。これまでスイスの施設を紹介してきましたが、部屋にいる人が少ないくらいで、敷地内を散歩したり、談話室で友人や家族と語り合っていたり、トランプをしたり、カフェでコーヒーやワインを飲んだりしています。逆にこの新居浜の施設では部屋にいる人が多く、ホールや廊下ではほとんど人を見かけませんでした。以前も書きましたが、1人になれる空間と人と気軽に交流できる空間や体制を整えることも、高齢者施設や介護施設には大切なのかもしれませんね。

 これらの検証結果とスイスの視察の経験を元に、私たちは「床はシンプルに! 壁に彩りを!」をモットーに医療関係の色彩設計を行っています。

 さて、ジュネーブの病院に話を戻します。
 広大な敷地の中には様々なリハビリ施設がありました。中でも素晴らしいと思ったのがガラス張りの天井で、サンルームのようなスペースに日常シーンを再現したリハビリアイテムが多々あることです。バスに乗る、石畳やレンガ・足元の悪い道(土や砂利)を歩く、マンホールの上を歩く、坂道や段差のある道を歩く、ベンチに座るなど、実生活を意識した具体的なリハビリを行うことで、社会復帰を支えています。

 例えば、マンホールや石畳、レンガには小さな溝や凸凹があるため、杖や車いすなどで歩行する際にバランスを崩して転倒する可能性があります。そこで、このリハビリ施設で対処法を学ぶのです。また、歩行バランスの分析をしてシューズの選択指導まで行われていることにも驚きました。

ベンチや外灯のある公園を再現

ベンチや外灯のある公園を再現

砂利道、アスファルト、マンホール、石畳、レンガのある道を再現
砂利道、アスファルト、マンホール、石畳、レンガのある道を再現
バスの乗り降り、段差を再現
バスの乗り降り、段差を再現

 別のリハビリ室には、キッチンや洗濯など家での動作を訓練するスペースがありました。たくさんの種類の洗剤容器が棚に置かれていて、蓋の開け方や持ち方などの訓練ができるようになっていました。

管理事務棟廊下の照明

キッチン、洗濯機周りを再現

 これまで見てきたスイスの病院にもリハビリ施設はありましたが、ここまで具体的なシーンを再現したリハビリ施設は他にはありませんでした。患者さんにとっても実践的な訓練をすることで、安心感や自信につながりますよね。

 次回はジュネーブから約9キロ離れたCollonge-Belleriに位置するホスピスCESCO Collonge-Belleriについてです。この施設は元々1970年代に女優ソフィアローレンが寄付をしてプライベート産院、一般外科病院としてスタートしましたが、その後オイルショック等で病院経営が危うくなり閉鎖。後に州がこの施設を購入して、ホスピスとして新たな活動が始まったという歴史がある病院です。お楽しみに。

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