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カラー フォー ユア ライフ (Color for Your Life)
第2回 - 海外の建物

スイス医療施設 その11 Fondation Plein Soleil a Lausanne

 前回に引き続きFondation Plein Soleil a Lausanneの病棟や病室についてお伝えします。
 この施設には高齢者だけでなく、急性期病院からの紹介患者で18才以上の人も入院できる、中間施設としての病棟があります。ここはリハビリ中心で入院期間は上限3ヵ月と決まっています。退院するときは作業療法士が患者の自宅をチェックし、生活する上で改築が必要と判断した場合は内装の改修工事をアドバイスするそうです。在宅が困難な場合は福祉施設への手続きまで行うとのこと。患者さんの退院後の生活まできちんと責任を持って関わる姿勢にホスピタリティを感じます。

 前回のコラムではこの施設で、色彩療法として色が持つイメージをうまく心理面に活用させている事例をお伝えしました。今回は色を機能的、かつ患者さんの満足度を高めるために活用していた取組みについてお伝えします。

 ここでは患者さんの治療プログラムを色分けしていました。例えば理学療法を受ける時間は緑、アトリエを利用する時間は黄色というように、目で見て分かるようにしているそうです。以前は色分けしていなかったのですが、認知症の患者さんも多く、スケジュールが覚えられないことへの工夫として色分けを始めたそうです。元々ローザンヌが属するヴォー州では、赤はドクターの色、緑は理学療法士の色と決められていて、この施設では名札やファイルもこの決まりにそって色分けされていました。ブルーのファイルはリハビリ患者用だそうです。ここまで徹底して機能的に色を使っていることに驚きました。

色分けされた理学療法プログラムとファイル類

色分けされた理学療法プログラムとファイル類

スタッフの部屋の天井はパイン材仕上げで温かみのある空間

スタッフの部屋の天井は
パイン材仕上げで温かみのある空間

 また、看護士の役割でも色が使われていて、比較的軽症の患者さん担当はブルー、重症の患者さん担当はピンクが名札に使われています。看護士さんから面白い話を聞いたのですが、ひそひそ話をするとき、この色を使うことがあるそうです。例えば赤はドクターの色なので、ドクターの噂話をするときは「あの赤ったら~」というように使うそうです。(笑)

看護士のブルー

看護士のブルー

右端は女医で赤い名札をしている

右端は女医で赤い名札をしている

 ところで日本では、トイレのサインを男女で青系と赤系で色分けする事例が多いですが、この施設を含め海外ではトイレのサインを男女で色分けする習慣がありません! 人型のサインで表現しているだけです。男は青、女は赤という色に性別を識別させる機能を持たせているのは、日本独自のものかもしれません。

アンケート調査風景
スイスのトイレのサイン:左はプラン・ソレイユ、右2枚はスイスの空港

 色を効果的に使う事例で、私が最も感動したことは長期入院病棟にありました。
 長期入院病棟は中間施設病棟とは別に、長期間リハビリや治療を行う患者さんが入院する施設で、主に麻痺など神経疾患の患者さんが多いそうです。病室を見学させていただくと、自宅で使っていた家具を持ち込んだり、写真を壁にたくさんディスプレイしたり、まるで自宅の部屋のような雰囲気です。しかし、これまでに見た施設でも良く見かけた風景なのですが、何か今までと違う雰囲気を感じます。何部屋か見せてもらって気が付きました、部屋によって壁の色が違うのです!

 不思議に思い質問してみると、入院手続きの際にオレンジやブルーなどがペイントされた4色の塗り見本を患者さんに見せて、この中から好きな色を選んでもらい、ペイントスタッフが入院するまでにその色で病室の壁を塗り替えておく、というシステムでした。
 また、定期的に塗替えもしていて、それとは別に長期入院中に別の色にしたくなったら塗り替えもするそうです。

コンピューター室

入院前に選べる壁の色見本

 これはすごいサービスですよね? ここまでしてくれる施設側に感動したと同時に、インテリアの壁に対するこだわりを強く感じました。壁は背景でありながら、その場の雰囲気を作り出す重要な役割を持っていることを施設側も患者側も認識しているということですね。なお、選べる壁の色は濃さの異なるオレンジ2色、水色1色、グリーン1色でした。なぜこの色選定なのか?を聞きたかったのですが、残念ながら聞けませんでした。きっとスイスでは好まれる色なのでしょう。
 ちなみに、オレンジ系を選んでいる人が多かったです。温かみのあるオレンジは気持ちを明るくする効果もあるため、選ぶ人も多いのかもしれません。
 使用している塗料はもちろん水性塗料ですが、アレルギーの人にはアレルギー対策の塗料を使うそうです。

 ある患者さんの部屋をご本人と一緒に見せてもらいました。この患者さんは事故で肢体麻痺になり、車イスを利用しています。3面はオレンジ色、1面は白でカラーコーディネートされた壁には、たくさんの写真が飾ってありました。写真は若い頃に参加していたサッカーチームの写真や学生時代の写真、家族写真などです。

オレンジ色に塗られた部屋

オレンジ色に塗られた部屋

たくさんの写真が飾られている

たくさんの写真が飾られている

 部屋を見せてくれた患者さんと一緒に敷地内を散歩しました。敷地内には敷地の高低差を利用したリハビリコースもあり、傾斜のある車イスのコースや階段を使うコースなどがありました。屋外にリハビリコースがある施設は、スイスでも初めてでした。
 散歩コースの一角に東屋があり、そこには石窯もあってピザを焼いたり音楽パーティーを開いたりするそうです。

敷地内のリハビリコース

敷地内のリハビリコース

屋外パーティーを行う東屋

屋外パーティーを行う東屋

ピザやパイを焼く石窯

ピザやパイを焼く石窯

 もう一つ、感心した取組みがあります。
 転倒など医療事故防止のために、何か事故があったら、いつどこで、どのような状況で起こったかを詳しく調べ、観察してすぐに対処する体制を整えていることです。例えば、滑りやすい床材が原因と判断した場合、床材を貼り替えることで転倒が1/4に減ったそうです。よく「滑るので注意」といった貼り紙を見かけることがありますが、根本的な解決を迅速に図ることも大事だと思います。

 なぜこの施設はここまで様々な要求に応えられるのか不思議ですよね。理由は、部屋のペイントや補修工事をするスタッフが専任常駐しているため、このような取組みができるのです。案内をしてくれたスタッフから、「患者さんが何を求めているか」を本人に直接聞き、その要望に対してどこまでできるかを大きな目標にしていると聞きました。患者さんの自立・社会復帰を目指して治療やリハビリを行うことは当然ですが、それだけではなく〈リラックスできる空間=自分の居場所〉をつくることにも注力していると。長期入院している患者さんにとって、病室は自分の部屋(居場所)です。そのため、インテリア空間を自分好みにしたいという要望にもできる限り応える努力をしているということでした。インテリアの雰囲気が人の心理に与える影響の重要性を改めて実感したものです。

 今回でこのスイス医療施設シリーズは11回目となります。約1年間、皆さんにお伝えしてきました。月日が過ぎるのは早いですね。

 私たち関西ペイントのCD研究所は、様々な色彩・色材について研究をしていると最初にお伝えしましたが、その研究の一つに医療福祉施設の研究があります。機能性や作業性が優先されがちな医療福祉施設において、色彩に意味を持たせ、色彩設計に役立てたいという思いから福祉大国であるスイスへ学びに行きました。医療系の仕事に携わる方々のツアーに同行したので、ツアーの主旨はスイスの医療福祉制度を学ぶことが目的のため、視察先の医療施設も特に色彩設計に考慮していると謳っている訳ではありませんでした。しかし、視察先では当たり前のようにプロのカラーコーディネーターが入り、色彩を効果的に使っている施設ばかりでした。

 スイスでは施設のスタッフや患者さんだけでなく、家族やボランティアなど様々なコミュニティーが形成されていました。そこには入院中、入居中という概念はなく、〈生活の場=日常〉が形成されているのを強く感じました。生活の場の基盤となるのは「自分がくつろげる空間」があること。そのためにインテリアを「自分らしく」することがとても重要だと思います。

 近年、日本でも老人ホームや高齢者用マンションなどが多く建てられています。インテリアにも凝っていてホテルのような高級感や自宅にいるようなくつろぎ感など、様々なコンセプトで入居者に喜んでもらうように工夫しています。
 入居者にとっては施設内が一つの世界になり、その世界の中に〈公と私〉が混在しています。だからこそ、日常にメリハリをつくるのが求められるのではないでしょうか。
 スイスの医療施設には、一つの施設内に様々なイメージの空間があることを紹介しました。ホテルのような、自宅のような、モダンなカフェのような、クラシカルな洋館のような…一つの街をつくるイメージで高齢者が生活する施設を考えるのも楽しいですね。

 さて、今回でスイス医療施設シリーズは終わりです。視察の最後にこの施設を見学し、インテリア空間に対する意識が変わりました。皆さんはいかがでしょうか?
 次回は近年日本にも増えてきた高齢者用マンション・介護付き有料老人ホームです。26年前からホスピタリティを追及し、今では「日本一の高級老人ホーム」と呼び名が高い、東京都内屈指の高級住宅街、世田谷区成城に位置する【サクラビア成城】を視察しました。2回にわたり皆さんに紹介したいと思います。お楽しみに!

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