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ペイント・ルネサンス(Paint Renaissance) 

漆喰空間の魅力-3


敢えて塗り残す。

 建物改修における仕上げ材は、古い下地すべてを覆い隠して新たな素材で仕上げるというのが一般的です。しかし、あえて全てを覆い隠さず、一部の旧素材を露出させる表現方法により、独特な時空間の演出が可能になります。
今回のペイントルネサンスでは、こういった独特な技法が用いられているヨーロッパの街並みと建造物を参考に見ていきたいと思います。

ベネツィアで撮影したアパートメントのファサード。仕上げが部分的に剥がれ落ちて漆喰を塗ったレンガの下地がファサードに表情を与えている。

 ヨーロッパの古い街並みを歩いていると、タイルや漆喰など仕上げに施された素材が剥がれて、下地がむきだしのままになっている壁面を見かけます。それは、一見すると手入れが行き届いていないようにも感じられますが、実はあえて塗り直さない部分が存在することで“おもむき”を感じ取ることができるのです。

壁の漆喰が剥がれ落ちた形は、決して意図的には表現できない
“偶然の産物”。

 下地の一部見えていても“おもむき”のあるテイストが表現できているのは、いわば“本造り”の証拠なのです。それは長い時を経て建造物に刻まれた歴史の証でもあり、下地が見えていることによってその歴史を垣間みることができます。中には城壁を自分の建物の一部に取り込んで自慢の壁にしているケースもあるほど、ヨーロッパでは広く受け入れられている個性的で且つ情緒的な演出なのです。


ビンテージを“魅せる”。

 伝統的な様式美を“価値”や“ステータス”ととらえるヨーロッパでは、インテリアにも同様の表現がよく見られます。特に、ヴォールト天井の空間は壁と天井の境界がない優雅な曲面ですから、たとえば自慢の石積みを見せる絶好の空間と言えるでしょう。そのようなシーンにおいて、今日まで残されている下地の表情を効果的に残す、いわば“いいとこ取り”の技法、“漆喰の塗り残し”がよく用いられています。

壁面の一部を塗り残し、漆喰の剥落をイメージしたオルデッロのレストランの内装。
壁面からヴォールト天井にかけて漆喰を塗り残したトラットリアの内装。
店舗のディスプレーにも漆喰の塗り残しをデザインし、商品との競演をうまく演出。

 たっぷり厚みを持たせた漆喰と、下地の壁面の双方の質感と重量のバランスが伝統的な様式美を見事に表現しています。この技法は、塗り残すほかに、特殊な材料やテクニックなど何も加えていない極めてシンプルな表現方法です。


内装の新しい価値創造へ

 さて、それでは日本の住まいに目を転じてみましょう。最近建てられている住まいのほとんどは、外壁がサイディング、内装は石膏ボードの下地の壁紙仕上げが通例となっています。木造の場合でも芯壁工法がほとんど姿を消してしまいましたから、あえて下地の構造を残して見せるような機会もあまり見かけなくなりました。外装も内装も、出来上がったときが一番美しく、時が流れると徐々に汚れが目立つことがいなめませんから、スケルトンを大切に残すヨーロッパの建造物のような古さの価値をいつでも表現できることはありません。けれども、インテリアコーディネーターの皆さんは今日の日本の“常識”に埋没してはいられません。漆喰などの左官材料や塗料は表面を覆い隠すだけでなく、その使い方次第で下地の持ち味を引き出したり、経年の変化に美しさやおもむきを付加することができます。その上、左官材料や塗料はコテや刷毛、ローラーなどのツールの使いこなしで、壁面に豊かな表情を持たせることができます。そのパターンは、インテリアコーディネーターの創意工夫でいくらでもデザインすることができるのです。そのプロセスは、分厚い壁紙のサンプル帳をめくる労力に比べてはるかにクリエイティブで楽しい仕事です。そろそろ均一で機械的な仕上げが当たり前になってしまった住まいとは違う空間性を考えていく時期なのではないでしょうか。そこで、次回は壁面や天井に豊かな表情を作り出す具体的な手法について考えていくことにしましょう。

(#005 「漆喰空間の魅力-4」へつづく。)

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