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ペイント・ルネサンス(Paint Renaissance) 

漆喰空間の魅力-4

ベローナで見つけた外壁。レンガの複層ボーダーの間を丸と角の石を不揃いに積んだ形と色の変化が美しい。

 前回は古い下地の構造の一部を残しつつ仕上げる手法について、ヨーロッパの建造物を事例にご紹介しました。今回はもう一歩突っ込んで、漆喰空間の魅力そのものに迫ってみたいと思います。漆喰空間の魅力とは大きく2つ。それは作り手による意図された“不揃いの美”と、時の成り行きがかもし出す“経年の味”です。従来の一般的な仕上げに価値を感じる方々にとっては、すぐに馴染めないかもしれませんが、漆喰の持つ本来の魅力をさらに豊かに表現するためには、インテリアコーディネーターの皆さんはみずからその殻を打ち破る必要があります。その本来の価値を知るための一番良い方法は、都市全体が“不揃いの美”と"経年の味"に溢れるヨーロッパの旧都を街歩きすることですが、写真でその例を見ていただくことで雰囲気はつかめるでしょう。

石積みの擁壁。3段の水平ボーダーの間をランダムに積んでいる。

 まずは“不揃いの美”の例です。ヨーロッパの旧都では、街の随所でこのような材料や色、形ばかりか並べ方などもわざわざ不揃いにしている壁が見受けられます。その面白さに興味が持てるようになればしめたものです。街全体がいっぺんに“壁のギャラリー”に見えてくることでしょう。
“不揃いの美”を発見していくと、もう一つの壁の表情にも興味がわいてきます。それは、長い時を経て表面が剥がれ落ちてしまっていても放ったらかしにされている壁です。放ったらかしにされている理由には色々な事情がある場合もありますが、どうやら敢えてそのままにすることで長い時間が生み出す“偶然のデザイン”を楽しんでいるようにも感じられます。こうした壁面の表情の移り変わりを、画一的な意図の介入がない“経年の味”と感じ取る感性もこれからのインテリアコーディネーターには求められる力。街の随所に散らばるヒントを汲み取って自身の提案に生かしていくことができれば、インテリアコーディネーターとして立派な“デザインハンター”だと言えるでしょう。

サルジニア島のサッサリのアパート。なるに任せた外壁と塗り直したドアのコントラストがバランス良い。
修復跡も古びた外壁にだまし絵の窓が生気を与えて面白い。
素っ気ない窓辺の演出だが、漆喰が剥げ落ちて古びた外壁に生活感がこぼれる。

 ヨーロッパの店舗やレストランでは、内外装に壁面の不揃いや経年による味を大切にしながら、斬新なデザインをプラスしている例もよく見かけます。こうした例も、先に紹介した漆喰本来の魅力を感じ取っていれば、その演出背景がよく理解できるのではないでしょうか。

シックイの塗り残しと組石が不揃いのバールのファサード。古いアーチが一部残っている。
チンクェ・テッレのヴェルナッツァ村で見かけたレストランの奔放な石積みのファサード。
グリーンが渋い外壁に映えるレストラン。

 さて、ここからは実務的なことに話題を移します。これらの"不揃いの美"と"経年の味"を面白いと感じて、デザイン感覚に新しい世界が見え始めたら、ぜひその感覚をあなたのインテリアプランニングに取り入れてみてはいかがでしょうか。まずは塗装から実践的にトライしてみましょう。通常の"きれいに仕上げる"というフラットな塗装の感覚は少し脇に置いておき、あえて"経年の味"を表現します。自らの手によるローラー塗装でもずいぶんと味がでます。たとえば、刷毛の運び方を工夫することで穏やかで上品な表情を持たせることができます。これは、刷毛塗りを短くかつランダムな方向に塗り広げる方法(はけランダム)です。刷毛目をあえて粗く残すことで、より効果的に表現できます。
こうして刷毛の運び方を工夫することで、1色塗りにも関わらず刷毛目がつくり出す陰影が生まれ、壁の表情に深みが増します。壁の表情をつくり出すには、塗装材としてやはり漆喰または漆喰由来の塗料がベスト。また、フラット塗装の上に少し色味をずらして塗るとより効果的になります。
このように刷毛の引き方や色彩に工夫を加えると、壁面のデザインはまさに無限の可能性が生まれます。ぜひあなたも、オリジナルなデザインに挑戦してみてください。きっとクライアントにも思いがけぬ感動を与えられることと思います。

刷毛ランダムの例。刷毛目の芳香と深さで光の方向によって表情が微妙に変化する。
シックイ塗料に砂をブレンドしている。刷毛とコテで多様な表情が生まれる。
コテでトップを押さえている。

(#006 「漆喰塗料のチカラ-1」へつづく。)

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